2017年3月16日、東京・新宿のNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]にて、平成29年度[第20回]文化庁メディア芸術祭受賞作品が発表されました。
メディア芸術祭は世界中から作品を募り、優れた作品を評価・展示するメディア芸術の祭典。
20回目を迎える今回は4000を超える作品の応募があり、日本国外からは過去最多となる88の国と地域からのエントリーがありました。 「アート」「エンターテインメント」「アニメーション」「マンガ」の4つの部門が設けられており、それぞれ大賞・優秀賞・新人賞が発表されました。
受賞作品の詳細は文化庁メディア芸術祭フェスティバルサイト(http://festival.j-mediaarts.jp)をご覧下さい。
また、当ページでも大賞・優秀賞の一部を、発表式典の様子も交えながら掲載しております。
ドイツ・Ralf BAECKER氏の『Interface I』が大賞を受賞。作者からはビデオメッセージを通じて喜びの声が語られた。
環境放射能に反応して、192個の直流モーターと連動する赤い糸が複雑かつ突発的に不規則な綱引きを起こすこの作品は、個々が自儘な動きをしながらも相対的には秩序立っている、世界の”構造”と”行動”の関係性を表現したものとして高く評価された。
また、記者発表では優秀賞に選ばれたアンドロイド『Alter』のデモンストレーションが行われた。
昨今ますますの成長を遂げるAIは効率的で経験則に基づき学習するものであるが、『Alter』は人間の心の規模をプログラム化するという全く異なるアプローチで製作されたもの。『Alter』の周囲の照度や物体との距離などに反応して混沌とした動きを見せるその姿は、不気味さとある種の神秘性を兼ね備えたものとして捉えられた。
昨年公開され、大きな話題となった『シン・ゴジラ』が大賞を受賞。2016年のメディア芸術作品を象徴するものとして、政治性を活劇的にコミカルに描いた点、娯楽映画の映像技術の到達点に至った点など、様々な面から評価された。
12年ぶりに日本の代表的特撮作品”ゴジラ”を復活させるにあたって、あらゆる面で様々な挑戦を行ったとのこと。中でも映像面に関しては着ぐるみからCGへの転換や、神秘性を際立たせる能楽師・野村萬斎氏によるモーションキャプチャー、また臨場感を出すためにiPhoneを用いて撮影を行うなど、非常に意欲的な試みに溢れたものであった。
優秀賞の一つ『NO SALT RESTAURANT』は、塩分過剰摂取によって健康が損なわるという問題に対するアプローチとして行われたプロジェクト。微量の電気で人間に擬似的な塩味を与えることのできるガジェット「ELECTRO FORK」を用いて、無塩料理のフルコースを美味しく楽しむことできる様子を、映像面やPR活動を通じて総合的なプロデュースが行われた。
記者発表では実際に「ELECTRO FORK」で無塩料理を試食するという一幕も。自然な塩味を感じることができ、試食した一同は驚嘆していた様子であった。
また新人賞を代表し、『岡崎体育「MUSIC VIDEO」』が紹介された。アーティストのミュージックビデオでありがちなことをコミカルに表現した動画は、SNSを中心に大きな話題を呼んだ。
最低限の制作スタッフと最低限の制作コストでの表現を実践した本作は、誰でも手軽に表現者となることができるようになった現代を反映した作品と言えるだろう。
こちらの部門でも、社会現象となった『君の名は。』が大賞を受賞。長いインディーズでの活動からその才覚を発揮してきた新海誠監督が、自身の作家性を保ちつつ周囲の要望などを見事に昇華した作品であっただろう。
優秀賞のひとつ『映画「聲の形」』については、デリケートな題材を見事に描いたものとして、原作マンガも高く評価されている作品。
本作の制作会社”京都アニメーション”は、可愛らしい女の子を魅力的に描くことで長くアニメをはじめとしたメディアを支えてきたと言えるのだが、この作品では京アニが磨き上げた表現技術で作品を魅力的に仕立て上げるという挑戦に成功しており、新たなステージへの到達を感じさせるものであったという。
新海監督は『雲のむこう、約束の場所』で第9回審査員特別賞の受賞者。『映画「聲の形」』の山田尚子監督もまた、『たまこラブストーリー』で第18回新人賞を受賞しており、過去の受賞者がさらなる境地に達して再び受賞者となったことを、審査員講評では喜びを持って語られていた。
大賞は石塚真一氏の『BLUE GIANT』(小学館「ビックコミック」連載作品)。
ジャズに魅せられた少年の「青春ジャズ成長譚」である本作だが、”音”に頼ることができないマンガというメディアの中でも関わらず、スピード線などの演出で”音”や演奏の熱気などを見事に表現したことが、高く評価された。
マンガ部門に関しては、既にアニメ化がされ知名度の高いような作品も多くエントリーするのだが、”勢い”や”旬”と表現される世間的な評価に基づいて審査せざるを得ず、受賞作品にもそのような傾向が表れている。
犬木加奈子審査員からは、歳月と共に大衆的に高く評価されるようになったマンガ分野に対し、今後も大きな期待をしていきたいと語られた。
“芸術”という言葉で括ることの難しい “マンガ” “ゲーム” “アニメーション” といったジャンルを “メディア芸術” という言葉で表現し、 「メディア芸術祭」ではその評価を続けてきた。
最先端の技術を用いた画期的な作品を高く評価する傾向の強かった本フェスティバルだったが、20年を経て、社会現象となるメディア芸術作品が多数登場した昨今では “メディア芸術” は大衆的なものとなり、メジャーな評価を受けるようになってきたと言える。
今回の受賞作品は “メディア芸術” の成熟を感じさせ、今後の “メディア芸術” の発展にますます期待を持てるものとなったのではないだろうか。
本年度の受賞作品展示会は2017年9月頃に開催予定。
作品審査のクオリティアップを主な理由に、例年に比べて作品発表ならびに受賞作品展示会までのスケジュールをずれ込ませたとのことだった。
受賞作品展示会の会場は東京・新宿のNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]。
今回も魅力的な作品が多く集まることが、今から楽しみである。
平成29年度[第20回]文化庁メディア芸術祭 受賞作品記者発表
メディア芸術祭は世界中から作品を募り、優れた作品を評価・展示するメディア芸術の祭典。
20回目を迎える今回は4000を超える作品の応募があり、日本国外からは過去最多となる88の国と地域からのエントリーがありました。 「アート」「エンターテインメント」「アニメーション」「マンガ」の4つの部門が設けられており、それぞれ大賞・優秀賞・新人賞が発表されました。
受賞作品の詳細は文化庁メディア芸術祭フェスティバルサイト(http://festival.j-mediaarts.jp)をご覧下さい。
また、当ページでも大賞・優秀賞の一部を、発表式典の様子も交えながら掲載しております。
記者発表の様子
【アート部門】
ドイツ・Ralf BAECKER氏の『Interface I』が大賞を受賞。作者からはビデオメッセージを通じて喜びの声が語られた。
環境放射能に反応して、192個の直流モーターと連動する赤い糸が複雑かつ突発的に不規則な綱引きを起こすこの作品は、個々が自儘な動きをしながらも相対的には秩序立っている、世界の”構造”と”行動”の関係性を表現したものとして高く評価された。
また、記者発表では優秀賞に選ばれたアンドロイド『Alter』のデモンストレーションが行われた。
昨今ますますの成長を遂げるAIは効率的で経験則に基づき学習するものであるが、『Alter』は人間の心の規模をプログラム化するという全く異なるアプローチで製作されたもの。『Alter』の周囲の照度や物体との距離などに反応して混沌とした動きを見せるその姿は、不気味さとある種の神秘性を兼ね備えたものとして捉えられた。
【エンターテインメント部門】
昨年公開され、大きな話題となった『シン・ゴジラ』が大賞を受賞。2016年のメディア芸術作品を象徴するものとして、政治性を活劇的にコミカルに描いた点、娯楽映画の映像技術の到達点に至った点など、様々な面から評価された。
12年ぶりに日本の代表的特撮作品”ゴジラ”を復活させるにあたって、あらゆる面で様々な挑戦を行ったとのこと。中でも映像面に関しては着ぐるみからCGへの転換や、神秘性を際立たせる能楽師・野村萬斎氏によるモーションキャプチャー、また臨場感を出すためにiPhoneを用いて撮影を行うなど、非常に意欲的な試みに溢れたものであった。
優秀賞の一つ『NO SALT RESTAURANT』は、塩分過剰摂取によって健康が損なわるという問題に対するアプローチとして行われたプロジェクト。微量の電気で人間に擬似的な塩味を与えることのできるガジェット「ELECTRO FORK」を用いて、無塩料理のフルコースを美味しく楽しむことできる様子を、映像面やPR活動を通じて総合的なプロデュースが行われた。
記者発表では実際に「ELECTRO FORK」で無塩料理を試食するという一幕も。自然な塩味を感じることができ、試食した一同は驚嘆していた様子であった。
また新人賞を代表し、『岡崎体育「MUSIC VIDEO」』が紹介された。アーティストのミュージックビデオでありがちなことをコミカルに表現した動画は、SNSを中心に大きな話題を呼んだ。
最低限の制作スタッフと最低限の制作コストでの表現を実践した本作は、誰でも手軽に表現者となることができるようになった現代を反映した作品と言えるだろう。
【アニメーション部門】
こちらの部門でも、社会現象となった『君の名は。』が大賞を受賞。長いインディーズでの活動からその才覚を発揮してきた新海誠監督が、自身の作家性を保ちつつ周囲の要望などを見事に昇華した作品であっただろう。
優秀賞のひとつ『映画「聲の形」』については、デリケートな題材を見事に描いたものとして、原作マンガも高く評価されている作品。
本作の制作会社”京都アニメーション”は、可愛らしい女の子を魅力的に描くことで長くアニメをはじめとしたメディアを支えてきたと言えるのだが、この作品では京アニが磨き上げた表現技術で作品を魅力的に仕立て上げるという挑戦に成功しており、新たなステージへの到達を感じさせるものであったという。
新海監督は『雲のむこう、約束の場所』で第9回審査員特別賞の受賞者。『映画「聲の形」』の山田尚子監督もまた、『たまこラブストーリー』で第18回新人賞を受賞しており、過去の受賞者がさらなる境地に達して再び受賞者となったことを、審査員講評では喜びを持って語られていた。
【マンガ部門】
大賞は石塚真一氏の『BLUE GIANT』(小学館「ビックコミック」連載作品)。
ジャズに魅せられた少年の「青春ジャズ成長譚」である本作だが、”音”に頼ることができないマンガというメディアの中でも関わらず、スピード線などの演出で”音”や演奏の熱気などを見事に表現したことが、高く評価された。
マンガ部門に関しては、既にアニメ化がされ知名度の高いような作品も多くエントリーするのだが、”勢い”や”旬”と表現される世間的な評価に基づいて審査せざるを得ず、受賞作品にもそのような傾向が表れている。
犬木加奈子審査員からは、歳月と共に大衆的に高く評価されるようになったマンガ分野に対し、今後も大きな期待をしていきたいと語られた。
“芸術”という言葉で括ることの難しい “マンガ” “ゲーム” “アニメーション” といったジャンルを “メディア芸術” という言葉で表現し、 「メディア芸術祭」ではその評価を続けてきた。
最先端の技術を用いた画期的な作品を高く評価する傾向の強かった本フェスティバルだったが、20年を経て、社会現象となるメディア芸術作品が多数登場した昨今では “メディア芸術” は大衆的なものとなり、メジャーな評価を受けるようになってきたと言える。
今回の受賞作品は “メディア芸術” の成熟を感じさせ、今後の “メディア芸術” の発展にますます期待を持てるものとなったのではないだろうか。
本年度の受賞作品展示会は2017年9月頃に開催予定。
作品審査のクオリティアップを主な理由に、例年に比べて作品発表ならびに受賞作品展示会までのスケジュールをずれ込ませたとのことだった。
受賞作品展示会の会場は東京・新宿のNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]。
今回も魅力的な作品が多く集まることが、今から楽しみである。